収録歌
あをによし 奈良のみやこは 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり
春過ぎて 夏来るらし 白栲の 衣乾したり 天の香具山
東の 野に炎の 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ
君待つと 吾が恋ひをれば 我が屋戸の すだれ動かし 秋の風吹く
あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る
紫草の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに われ恋ひめやも
熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今はこぎ出でな
父母が 頭かき撫で 幸くあれて いひし言葉ぜ 忘れかねつる
韓衣 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来ぬや 母なしにして
多摩川に さらす手作り さらさらに 何そこの児の ここだ愛しき
銀も 金も玉も 何せむに 勝れる宝 子に及めやも
この世にし 楽しくあらば 来む世には 虫に鳥にも われはなりなむ
妹として 二人作りし わが山斎は 木高く繁く なりにけるかも
春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ をとめ
我が屋戸の いささ群竹 吹く風の 音のかそけき この夕べかも
新しき 年の始めの 初春の 今日降る雪の いや重け吉事
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