監修者のことば
「古典文学とアニメーション」
三木 紀人
お茶の水女子大学名誉教授・城西国際大学教授
現代人、ことに年少者にとって、日本の古典は限りなく縁の薄いものと思われがちである。作者、作中人物の姿・形・言動、生活環境、時代背景などなど、われわれのそれらと大きく異なっており、身近なものから類推するのはむずかしい。多少できても断片的な理解にとどまるであろう。心情的には共感できる部分が多く含まれるのに、古典への視界はすっきりしないままである。
そうした問題を解決する方法として、様々なものが知られているが、アニメはもっとも効果的な一つであろう。文字を通しては解りにくかった物事が、一瞬のうちに実感を伴って把握できる。静止した画もそうである。だが、動きや音声が伴うものであれば、その効果はさらにはかりしれない。
もとより、美しく魅力的なだけでなく、遠い世界の再現をこころざす映像である限り、考証が相当必要になってくる。これまで古典学習に寄与するアニメがなかなか制作されなかったのはその難しさによるが、このたびの「アニメ古典文学館」は、いろいろな工夫がこらされていて、かなりの効用が期待できそうである。これによって、多くの人に古典と親しむ道を見付けていただきたいと願っている。
●三木紀人(みき すみと)
1935年兵庫県生まれ。1966年東京大学大学院博士課程修了。日本中世文学専攻。お茶の水女子大学教授を経て、現在同大学名誉教授、城西国際大学人文学部教授。著書に『徒然草
全注釈』、『方丈記・発心集』、『鴨長明』、『日本周遊古典の旅』など多数。サン・エデュケーショナルのビデオシリーズに『平家物語 人物紀行』(全5巻)、『古典名作撰』(全15巻)がある。
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