■推薦のことば
日本比較思想学会会長 吉田宏哲(大正大学教授)
これまで人々は世界の諸宗教について、その知見をほとんど書物によって得ていた。しかしながら、書物による知見だけでは、人々の生活の中に息づいている宗教の様態を知ることは不可能であり、また世界中の諸宗教について総括的に知ることも不可能である。
とくに我々日本人は公的には宗教教育を全く受けていない特殊な国民であって、精神的生活における宗教の意味について、限られた専門家以外は全く興味も関心も無きがごとくである。もちろん、神仏に関わる伝統的な生活習慣の中にあって、これをそのまま受け入れているというのが現状であるが、しかし、今日、世界で起こっている大小のテロや戦争、人種差別や抑圧のすべてに宗教が関わっているということをよく理解できないでいる。
現代社会は情報化・映像化・グローバル化の時代であって、このような時代を誤りなく生き抜くためには、世界の諸宗教について正しい知見と、その歴史的・社会的役割と位置とについての認識は不可欠である。それ故、このような時期に、ハンス・キュング博士の製作総指揮による「世界諸宗教の道」全7巻が日本語版DVDとして丸善から発刊されたことは、誠に時宜にかなった快挙である。我々はこれによって居ながらにして、数千年にわたる世界の諸宗教の歴史と教義、宗教的儀礼・生活、その宗教の現代的意義と問題点等を知り、かつ見ることが出来る。
これら全巻に漲る学的正確性・総合性、さらには提供されている映像の適切性・芸術性は目を見張るばかりである。
よってここに、日本語版を含めその制作に携わった全ての関係者に感謝し、かつ広く各界に推薦する次第である。 |
■日本語監修のことば
吉田 収(東洋大学教授)
人間の究極の問題は生死であり、それを解明、実践するのが宗教である。それは時代や場所や伝統それぞれの知見により、部族・民族・世界宗教に発展したが、固着、誤解、誤用もされてきた。「一つの言語しか知らぬ者は、言語とは何かを知らない」と言われるが、「一つの宗教しか知らぬ者は、宗教の本質を知らない」ことになり、宗教間の争いや文明間の衝突に至る。まして一つも知らなければ「生き方」を知らないことになり、人類のみならず地球生命系が死に至る。何千年、何万年続いた「生き方」の跡―遺蹟、建物、芸術、生活、風習、文化等を世界各地に辿った未曾有の映像、空中撮影、自然の絶景、画像による解説など百聞は一見に如かずである。概説の寄せ集めではない、製作総指揮者キュング博士の畢生の全力投球による編集・解説は、広く深い識見による平易な解説、比較洞察、枠組転換論、批判転換、具体的提案など専門家を含めて全ての人に見逃せない内容である。諸宗教に通ずる究極の真理と倫理、「聖(holy=全体、健全〈whole、
wholesome〉への再帰〈re-ligion、re-ligare〉)」と「一切の共=友である」を現代の政治、経済、社会、文化、生態、環境等にとっての「生き方」とすべきこと、「地球倫理なくして、世界の存続はない」ことをこのシリーズは訴えている。教材としては勿論、一般の宗教理解にも最適であり、万人の閲覧、参加、そして生命体系の和合達成に資すことを切に願う。
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