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ひとり灯のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなうなぐさむわざなる。(第13段)
〈ひとり灯下に書物をひろげて、遠い時代の人を友とするのは、このうえない慰めである。〉
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人は、おのれをつゞまやかにし、奢りを退けて、財を持たず、世をむさぼらざらんぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富めるは稀なり。(第18段)
〈人は質素を心がけ、贅沢をせず、私財を持たず、世俗的な名声や利益を求めないのがよい。昔から、富んだ賢人は稀である。〉
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3
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人と生れたらんしるしには、いかにもして世を遁れんことこそ、あらまほしけれ。(第58段)
〈人として生まれたからには、そのしるしとして、万難を排して世を捨てるのが望ましいことである。〉
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4
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すべて、何も皆、事の整ほりたるは悪しき事なり。し残したるを、さて打ち置きたるは、面白く、息延ぶる業なり。(第82段)
〈すべて何でもそうであるが、物事が整然としているのは好くないことだ。し残したのをそのままにして置くのは、面白く、心が安まるものである。〉 |
5
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吉凶は人によりて、日によらず。(第91段)
〈吉凶というのは、人の善悪で決まるものであり、日によって決まるものではない。〉
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ある人、弓射る事を習ふに、双矢をたばさみて的に向ふ。師の云はく、「初心の人、二つの矢を持つ事なかれ。後の矢を頼みて、始めの矢に等閑の心あり。毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ」と云ふ。(第92段)
〈ある人が、弓を射る事を習うのに、二本の矢を持って的に向った。その師が「初心者は、二本の矢を持ってはいけない。後の矢を頼って、始めの矢を射る時に油断してしまう。毎回、失敗せずに、この一本の矢で必ず当てようと思え」と言った。〉
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7
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友とするにわろき者、七つあり。一つには高くやんごとなき人。二つには若き人。三つには病なく身強き人。四つには酒を好む人。五つにはたけく勇める兵。六つには虚言する人。七つには欲深き人。よき友三つあり。一つは物くるる友。二つには医師。三つには智恵ある人。(第117段)
〈友とするに不適当な者が七つある。第一に高貴な人。第二に若い人。第三に無病で健康な人。第四に酒好きな人。第五に勇敢な武士。第六にうそをつく人。第七に欲の深い人。望ましい友には三つある。第一に物をくれる友。第二に医者。第三に智恵のある友。〉
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花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは。(第137段)
〈桜は満開の花を、月はかげりのないものだけを見るべきであろうか。〉
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盗人を縛め、僻事をのみ罪せんよりは、世の人の飢ゑず、寒からぬやうに、世をば行はまほしきなり。(第142段)
〈盗人を捕らえ、悪事だけを罰するよりも、世の中の人が飢えることなく、寒さをしのげるように世の中を治めてほしいものである。〉
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天下の物の上手といへども、始めは不堪の聞えもあり。むげの瑕瑾もありき。されども、その人、道の掟正しく、これを重くして放埓せざれば、世の博士にて、万人の師となる事、諸道かはるべからず。(第150段)
〈天下の名人といえども、初めは、下手だと噂され、事実、欠点が多かったのである。しかし、そのような人も道の掟に忠実で、それを重んじて勝手なことをしなければ、世の権威として万人の師となることは、どの道でも同じことである。〉
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よろずの事は頼むべからず。愚かなる人は、深く物を頼むゆゑに、恨み怒る事あり。(第211段)
〈何事をも頼ってはいけない。愚かな人は、何かに深く依存するから、恨んだり怒ったりすることがある。〉
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