「温故知新」のアニメ
加藤 徹 (明治大学教授)
鳥肌が立った。作品に生命(アニマ)を吹き込むとは、こういうことか。収録当日、スタジオのモニター室で、アニメ声優たちの渾身の演技を聞き、心がふるえた。孔子や孟子が、李白や杜甫が、故事成語の中の古人たちが、「肉声」とともに次々とよみがえる。彼らが生きた大地や町なみが、彼らが肌で感じた春夏秋冬の移ろいが、アニメーターによって詩情豊かに再現される。先人が残した格調高い古典の言葉が、プロの声優たちによってぬくもりを与えられ、未来をになう生徒たちに届けられる。まさに「温故知新」のアニメと言えよう。
仕事がら、漢文や漢詩を何十年も読んできた。そんな私でさえ感動した。みずみずしい感性をもつ生徒たちは、きっと大いに興味をもち、漢文の理解を深め、自分や社会を見つめ直すヒントを得られることだろう。
私たちの祖先は漢文の古典を学び、暗誦し、人生の友としてきた。漢文を読む形は時代とともに変わる。孔子の時代は竹簡や木簡の写本で読んだ。李白や杜甫の時代は紙の写本で読んだ。江戸時代の日本人は木版印刷の和装本で読んだ。現代人は洋装の活字本やネットで漢文を読む。ふれあう形が変わっても、漢文は私たちに人生を生きる勇気と知恵を与えてくれる。
今、若い世代が慣れ親しむアニメという形で、漢文の世界に生命が吹き込まれた。ぜひ多くの人々に見ていただきたいと思う。
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